
よろしくお願いします。ご経歴を伺う前に、インテリアコーディネーターになりたいと思ったきっかけを教えてください。

インテリアデザインに興味を持ったのは、高校2年生の頃でした。ドイツに暮らす従姉妹を訪ねて人生初のヨーロッパ渡航をしたのですが、目に映るものすべてが美しくてカルチャーショックを受けました。市庁舎の上から見た街並みは絵本のように美しかったし、インテリアに施された細かい装飾はそれだけで1つの芸術作品のようで、その美しさにただただ感動しましたね。そこからインテリアデザインに興味を持ちました。

また、父がアパートの大家だったので、小さい頃から日常的にリノベーション工事や日曜大工しているのを見ていたり、リノベーション関連のテレビ番組を見て匠の技に感動したりして、インテリアコーディネーターに憧れるようになりました。

ドイツでの感動体験がきっかけだったのですね。憧れのインテリアコーディネーターになられてからは、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

インテリアコーディネーターの資格を取得した後、某大手デベロッパーに入社し、分譲マンションのモデルルームの家具や照明、カーテンや小物のコーディネートまで幅広く担当しました。 仕事のやり甲斐はとても大きく、自分が担当した物件を偶然知り合いが購入してくれたなど嬉しいこともありましたが、身体の負担や将来のことを考えて少し方向性を変えることにしました。

転職して入ったインテリアデザイン会社では、一戸建てのリノベーションデザインをお客様に直接提案していました。その後子供が生まれたので、子供達が小さい頃はパート勤務としてオーダーカーテン専門店でアドバイザーの仕事をしていました。その次は大手インテリア小売店でインテリアコーディネート全般に関わる仕事を経験し、その後長野県に移住しました。長野県では今までの経験を総結集して古い住宅を自分でリノベーションし、しばらく生活した後、海外に渡って約10年間暮らしていました。

特にバンコクの居住期間が長かったのですが、バンコクではコンドミニアムやホテル、スパ、オフィスなど多岐に渡る建物のリノベーションデザインをしました。バンコクにいながら京都の民泊を遠隔でデザインしたり、いろいろな経験をして刺激的な毎日でしたね。

それと同時にさまざまな方からお声がけいただいて、人との繋がりの大切さを痛感しました。もともと人との繋がりを大事にしていたのでいろんなお仕事をいただけたというのはあるのですが、これからももっと大切にしていきたいと思いましたし、人との繋がりが作れるような場所づくりを意識していきたいなと思いましたね。

2021年に日本に帰国してからは、住宅メーカーでインテリアコーディネーターをした後、フリーランスになって現在に至っています。最近では、建物のリノベーションという枠を超えて、イベントで苔のアートワークショップやタイのデザインについてのトークショーをしたり、JAFICA(日本フリーランスインテリアコーディネーター協会)内のインターナショナル研究会のリーダーをさせていただいております。

建築の枠にとどまらず、とても幅広いお仕事をされていて驚きました。バンコクでのご経験をもっとお聞きしたいです。

バンコクには約7年滞在して、コンドミニアムやスパ、ホテル、オフィスのリノベーションから施工まで、幅広いジャンルと仕事内容を経験しました。日本のインテリアコーディネートとは全然違っていて、クリエイターが自由に作っているのが衝撃でしたね。みんな発想をどんどん具現化して生き生きと働いていました。文化の違いもあるのでもちろん苦労することもありましたが、全部貴重な体験として心の中に残っています。

また、仕事の広がり方も独特でした。とあるスパで季節の飾りをちょっと担当したことがあり、できばえをすごく喜んでいただいて。あれよあれよという間にスパ全体のインテリアコーディネートを任せていただけることになったんです。喜んでもらえるのは純粋に嬉しいですし、アイデアをそのまま表現できるというのはコーディネーターとして幸せなことだなと思いました。

ありがとうございます。フリーランスになって最初に手掛けられたのはどんなお仕事だったのでしょうか。

法律事務所のオフィスを手掛けました。事務所に相談に来るお客様がほっと安心できる空間をつくりたいということで、いわゆるオフィスっぽい重厚感は出さず、天然素材を使ったりボタニカルなものを使用して雰囲気を作りました。

近年はオフィスと住宅の境目があまりなくなってきている印象で、オフィスでもふんだんにグリーンを取り入れたり、集中力を上げるために意図的に休める場所をつくることが増えているように思います。あえて家庭的な雰囲気の場所を作ったり、瞑想部屋をつくるなど心のケアに気を配ったオフィスも増えているようです。

国際的な展示場でもボタニカルな雰囲気づくりやグリーンを取り入れているインテリアが増えているので、オフィスに癒しの空間をつくるのがトレンドになってきているのかもしれません。私は自然の美しさに触れることがもともと好きで、昔から感覚的に植物をインテリアに取り入れることが多かったので、まさに私だからこそご提案できることがあるんじゃないかなと思っています。

自然に触れることがお好きなのですね。ちなみに他にご趣味や、日常的に行っていることはありますか?

自然に限らず美しいものを見ることが好きですが、やっぱり1番惹かれるのは自然が持つナチュラルな美しさですね。自然って荒々しい一面もあるので、ある種の神々しさや畏怖の念を抱くこともありますが、そういう面も含めて美しいと思います。とにかくパワーをもらえる感じがしますね。

あとはものづくりも好きで、趣味が高じてプリザーブドフラワーアレンジメントの講師資格も取りました。おもしろい逸話があって、たまたま表参道のショールームで仲良くなった方に、フラワーアレンジメントができるというお話をしたら興味を持ってくださったんです。その場でマネージャーとの面談をセッティングしていただいて、後日その会社で苔のアートワークをすることになりました。

それまで苔に興味があったわけではないんですが、お仕事をいただいたことを機に改めて研究してみたら、その奥深い世界に魅了されました。苔の持つ雰囲気は、現代のダイバーシティな生き方ともリンクすることに気づき、学ぶことで視野が大きく広がりましたね。

感性や好奇心がお仕事につながっているのですね。そういったインスピレーションをどこから受けているのでしょうか?

]私はやっぱり自然からインスピレーションを得ています。生き物や自然界からヒントを得て生まれた製品が多く存在しているように、ほんの些細な日常の情景にもデザインのヒントは転がっているんです。なので本やデータで学ぶだけではなくて、“本物”に触れることを心掛けています。感性を磨くには旅に出ていろんなものを見たり触ったりすることが大切だなと感じています。

先日宮崎を訪れたのですが、白波や奇岩の数々は息を呑むほどの美しさで、同時に自然への畏怖の念も抱きました。そのスケール感たるや、東京では味わえない貴重な体験でしたね。また、海沿いに咲く鮮やかな花々の色彩も都会では目にすることのない色合いで、こういった雄大な自然に刺激をもらうことが重要だなと思いました。

ありがとうございます。今後の展望を教えてください。

人が自分らしくいられる場所をつくっていきたいです。気持ちが和らぐ場、安心できる空間があれば、落ち込んだときでもまた頑張ろうという気持ちになれると思うんですよ。年齢も、性別も、国籍も関係なく、そういった枠をはみ出すというか、枠を取り払うような空間づくりをしていきたいですね。

また、人との関わりも大切にしているので、私自身人と人とを繋いでいきたいですし、人を繋ぐ場所をつくっていきたいです。空間づくりに関しては、住居をただの箱と捉えず、そこでの生活や息づいている文化も含めてリノベーションをしていきたいと思っています。日本の住まいをより豊かにしていきたいですね。

型にはまらない自由な発想を持つ西尾さんだからこそ、皆が安心する場所を提供し、多様な価値観を認め合える世界を作り出せるのではないかなと感じました。本日はありがとうございました。
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